2019年4月:【教室へのエアコン設置】

 皆さんこんにちは、渡邉です。

 さあいよいよ4月、桜も見ごろを迎え、日に日に暖かさが増して過ごしやすくなってきました。今月号の「ひげ日記」では学校へのエアコン設置について私の感じていることを書かせていただきたいと思います。

■学校へのエアコン導入

 2018年の猛暑をきっかけに、各地の学校でエアコンの導入が進み、文部科学省は19年度に、公立学校の施設整備に18年度予算の約3.6倍にあたる2432億円を盛り込み、教室へのエアコン設置等をすすめています。

 17年4月時点の文科省の調査によると、公立小中学校の普通教室の空調(冷房)設備設置率は全国で49.6%にとどまる。相次ぐ異常気象で「命の危険がある暑さ」が続く中、子供たちに我慢を強いることなく健康を守る必要な措置だといえる。温暖地でも東京都は99.9%、香川県は97.7%と設置がほぼ完了している。

(日経 XTECH 省エネ NEXT2015.09.10よりの引用)

■静岡県の場合

記事にある表を元に静岡県はどうなっているのかを調べてみました。普通教室10,986室に対して設置室は869室、設置率はわずか7.9%。ほとんどの教室でエアコン設置が進んでいないことがわかりました。

 そんな中、私の住む静岡県富士市でも小中学校の全教室にエアコンを設置する事業が開始されました。異常気象も続き、最低限必要な事業だとは理解しています。しかし、エアコンを設置すればそれで解決だと考えているとしたら、大きな間違いだと思います。

■パッシブデザイン 

私は10年以上前から、『地震に強く、住む人と地球にやさしい家』~快適で省エネなエコハウス~をモット-にエコロジ-でエコノミ-家づくりを皆さんにお勧めしてきました。

 その基本は自立循環型住宅という考え方です。「いまある技術を使って、気候や敷地特性および住まい方に応じて、極力自然エネルギーを活用した上で居住時のエネルギー消費量を1/2にする。」というものです。

 私が試算したところ、この考え方をベースに家づくりを行えば、太陽光発電に頼ることなくエネルギー消費量と電力消費量を1/2にできるのです。私が目指すのはあくまでも、「快適で省エネな住宅」です。我慢して省エネではなく、快適で省エネな住宅なのです。断熱性能も低く、パッシブの考え方も取り入れられていない住宅。

 その住宅に太陽光発電を載せて沢山エネルギーを使ってるけど、発電してるから省エネ。そんな省エネだけど快適じゃない、「なんちゃってエコハウス」を皆様にお勧めしたくないのです。

家庭部門のエネルギー消費量増加原因の一つは、設計に配慮することなく、簡単なエアコンなどで冷暖房を行い、力ずくで室内環境を整えてきたことにあると思っています。

 高効率機器の採用よりも、まずは断熱や通風、日射遮蔽などの「パッシブデザイン」を取り入れ、空調負荷を減らす設計を行うことが何より大切なのです。

  そう考えている私には、平成も終わろうとしているこの時代にエアコン設置だけで済まそうとしている行政をとても腹立たしく感じました。今回のエアコン設置も、発注側が現状でのエアコン設置の見積もりを依頼すれば、業者側はスカスカで無断熱の教室でも機能する大型のエアコンを提案します。そして膨大な税金が大型エアコンに投入され、毎年多額の光熱費を支払い続けることになるのです。

 断熱性能の低いままの教室を冷やすということは、例えば無断熱の窓や壁から外部に漏れ続ける大量の冷気に見合った分の冷気をエアコンから出し続け、バランスを取るということなのです。

■断熱改修+日射遮蔽 

窓や壁など外皮の断熱改修を行えば、室内温度も安定し、外気の影響を受けにくくなります。その結果、より小さなエアコンの設置が可能となるのです。

 それは設置費用や設置後の光熱費が安くなるのはもちろんのこと、室内環境が整えられ、子供たちの健康に良いことも最近の研究でわかっています。高断熱化するだけでなく、窓の部分に庇を付けたり、外付けブラインドを設置したりして日射遮蔽を行えば更に効果的です。

■ブラックアウト

 災害時に学校は避難所としても活用されます。万が一、真夏や真冬に災害が起きた場合を想像してください。その時もし停電していたらエアコンは全く動きません。 昨年の北海道胆振東部地震では、約295万戸が停電。同9月の台風21号でも260万戸が停電しました。

 万が一そんなことが起こった場合でも、断熱改修した室内なら外気の影響を受けにくく安定した室内環境を被災者に提供してくれるのです。

■さいごに

 断熱改修と併せてエアコンを設置するのがベストです。しかしエアコン設置後でも断熱改修は可能なのです。教室にエアコンを設置したから一件落着ではないのです。

 こうした考えに共感してくれる方が一人でも増える事を期待しています。

 それではまた来月お会いしましょう。

㈱建築工房わたなべ 代表取締役 渡邉泰敏